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こちらの記事では、江戸時代の真勢中州(ませ ちゅうしゅう)の「生卦法」について解説してみます。
この生卦法というのは、ある卦が出てきたときに、その中の八卦を別のものにしてみたり、爻がさらにどのように変わるかをみていく――というものなのですが、ふつうの周易に慣れている方からすると、そんな複雑&奇怪なスタイルがあるのか……と思うかもです。
ちなみに、わたしの私見を一応かいておくと、この生卦法はたくさん用いれば良いというわけではなく、実際の状況がどのように卦・爻などにあらわれているかをみて、その原因になっている卦・爻をどのように動かすと対策できるかをみる――という感覚です。
なので、いろいろな生卦法がありますが、実は一度の占いですべてを用いるわけではなく、実際の状況と卦・爻の重なりをみつけるほうがメイン、という感じです。
というわけで、私なりにやや簡略化した形ではありますが、生卦法の紹介をしてみます。
(ふつうの賓卦・錯卦・互体なども真勢流では出てきます)
爻についてのもの
まずは、実際の状況が爻であらわれているときに用いるものです。
来往生卦
こちらの来往生卦では、外から陰爻or陽爻が入ってきて、いままでの状況が変わったときに用います。
たとえば、天地否の二爻に陽爻が入ってきたら、天水訟になります。天地否は、上下で心が分かれている様子とされますが、坤(下のもの)はすべて陰なので、しずかに心が離れている様子です。
ですが、二爻(臣下)のところに陽爻が入ってくると、下卦には険しい坎があるので、上(乾)と争うようになります。なので、今の上下で争っている様子は、最近になって、歯に衣着せぬ人が入ってきて、いままでの沈滞した睨み合いを破った――みたいになります。
変為生卦
つづいて変為生卦です。こちらは、ある卦の中で、爻の陰陽が変わることです。たとえば、天水訟の五爻が陰になると、火水未済になります。
天水訟では、五爻(王)と二爻(臣)がどちらも陽でしたが、火水未済だと二爻・五爻が応になるので、上下で話をしてみよう――みたいな雰囲気になります。
これはたぶん五爻(王)にあたる人が、頑なに曲げない(陽爻)ではなく、相手の話も聞いてみる(陰爻)になっていることをあらわしています。
ですが、未済はいろいろ未整理な様子でもあるので、訟之未済が出たときは、いままで上下で争っていたけど、上の人がやや歩み寄り路線になって、話を聞きながら、山積みになっていた物事を片付け始めている……というイメージです。
ちなみに、天水訟の五爻(王)が変わるといっても、外から別の人が入ってきて方針が変わるときは来往生卦(外から陰爻or陽爻が入ってくる)、五爻みずからが考えを改めるときは変為生卦みたいになります(この辺りは、ヒアリングを通じて分けているだけです)
運移生卦
つづいては、運移生卦です。こちらは、ある爻が上下に動いた様子を感じたときに用います。たとえば、火水未済の四爻(陽)が、三爻にまで下りてきて、山風蠱になっている様子――みたいなものです。
火水未済の四爻は、もともと溢れるエネルギーを外に向けていたNo.2みたいな感じでしたが、まだ軌道に乗り切らない未済をみていて、みずから外に出て動いているよりも、内部の旧弊を除くほうが大事だとおもえば、三爻(下半分だけど、がんがん動く)に移ってきます。
そうなると、山風蠱の三爻(やや激しいやり方もするけど、旧弊を除いていく)になります。なので、未済之蠱が出てきた&話を聞いていると、たぶん未済の四爻が蠱の三爻に移ったのかな……みたいに思ったときは、その変化を運移生卦としてみていきます。
ちなみに、火水未済の四爻(陽)は、未済の三爻(陰)を越えられますが、未済の二爻(陽)を越えて、いきなり初爻まで行くのは無理らしいです。
理由としては、“未済の二爻(陽)が初爻に来て、四爻(陽)が二爻(陽)に来て蠱になっている”or“未済の二爻(陽)はそのままで、四爻(陽)が初爻に来て蠱になっている”のどちらなのかが、分かりづらいためだと思います(もしくは、真勢中州が占ったときに、あまりそういう卦の例が無かったゆえかも……。あと、陰爻も陰爻を越えないです)

というわけで、爻の動きで実際の様子をあらわしている生卦法は、来往生卦(外から入ってくる)・変為生卦(中にある爻の陰陽が変わる)・運移生卦(爻の配置が上下に変わる)の三つがあります。
この三つは、実際の状況と爻がどのように結びついているかによって、呼び名が分かれているだけ――みたいに思っていて良いかもです。
八卦についてのもの
つづいては、実際の状況が八卦であらわれているときに用いる生卦法です。
顛倒生卦
まずは、内卦・外卦にある八卦をそれぞれ上下逆にしてみる顛倒生卦です。
こちらはたとえば、いまの職場でうるさい口出しをしてくる人がいて、このまま居て大丈夫か悩んでいるときに、占ってみて「火山旅から水山蹇」が出たら、この「旅」は別のところに移る、内卦(自分)の艮は固く堪えている、外卦(相手)の離はいちいち口出しする様子とみえます。
こんなとき、内卦(自分)が今と異なる動きをしてみたらどうなるのか――ということを予想するために、たとえば内卦艮を上下逆にして火雷噬嗑になれば、内卦が震(激しい動き)なので、激しく云い争う様子です。
反覆生卦
こちらの反覆生卦も、やはり今と違う動きをしてみたらどうなるか予想する系です。
さきほどの顛倒生卦は、乾・坤・坎・離では上下逆にしても同じになってしまうため、今と違う動きを予想するときは陰陽逆にしてみます。
たとえば、さきほどの火山旅で、こちらが艮(静かに耐える)から兌(すこし歩み寄る)になってみれば、火沢睽なので“しっくり来ない背き合い――”みたいになってしまいます……。
もしくは、しだいに相手がさらに険悪な嫌がらせをしてくる(離は口出しだけ、坎はもっと険悪な雰囲気)みたいになったら、之卦の水山蹇なので、静かに耐えているこちらの艮と、ひんやりと険悪な坎(相手)になって、このままではいよいよ行き詰まっていく様子に重なります……(真勢流では、本卦・之卦のながれも、生卦としてみることがあります)
もっとも、水山蹇から水沢節(大きい沼地が水を湛えているように、相手の険悪さをこちらが上手くいなしている)になれば、まぁそれなりに落ち着くかもですが、良いとは云えないです。
易位生卦
こちらの易位生卦は、外卦・内卦を入れ替えてみて、状況がどのように変わるかを予想します。
たとえば、さきほどの火山旅が水山蹇(うるさい口出しから嫌がらせになる)では、こちらがいなすようになれば水沢節になります。ですが、嫌がらせをしない人たちと上手くいっていれば、内卦兌はさらに外側の人たちとつながりがあるので、外卦坎のさらに外に出られます。
そうなると、水沢節は沢水困になります。沢水困では、大きい沼地がわずかな水(坎)をふくんでいる様子なので、どちらかというと相手(坎)のほうが包囲されている――みたいになります。
なので、もしこのまま嫌がらせがあるなら、むしろその気になれば相手を孤立させられるけど――みたいにも予想できるかもです(もっとも、私だったら、どうしても好きな仕事ではないなら、無理に粘らないでいいと思ってそうですが……)

こんなふうに、今と異なる動きをしてみたらどうなるのか――みたいな対策をいろいろ出せるのが、八卦を用いる生卦の魅力です。
交代生卦
最後に、さきほどの爻重視・八卦重視にあてはまらない「交代生卦」をみていきます。
これは、陰爻陽爻がそれぞれ三つの卦は、すべて地天泰・天地否のふたつから派生している――とするものです。
たとえば、風雷益の彖伝には「損上益下(上を減らして、下をふやす)」とあって、それを“天地否の上卦の陽をひとつ減らして、下卦に陽をひとつ増やした”とみています。
さらに、山風蠱の彖伝「剛上而柔下(陽が上がって、陰が下る)」は、地天泰の下卦から陽をひとつ上げて、上卦から陰をひとつ下ろしたもの――としています(こういう解釈は、中国でも唐・李鼎祚『周易集解』、北宋・蘇軾『東坡易伝』などにもあります)
こんなふうにして、陰爻三つ陽爻三つの卦は、いずれも泰・否の派生形とするのですが、この「泰・否」はいずれも抽象的な泰(上手くいっている)・否(上手くいっていない)みたいになっています。
なので、たとえばさっきの火山旅では、もともと天地否(上下で割れる)だったのが、五爻の陽が三爻まで下りて、わざわざ口出ししている様子で……みたいにみていきます。
ちなみに、三爻は下卦(下のもの)の中では最も上にあるので、出る杭だと思われているらしくて――みたいな雰囲気もありそうです。
(天地否の三爻はどうなったの……と思うかもですが、真勢中州って、そういう不整合性はあまり気にしないで、文脈に合っている方だけを取ることが多いです。あと、天地否から火山旅は交代生卦、火山旅からの対策は顛倒&反覆生卦みたいに、いくつかの生卦法を混ぜることも多いです)

というわけで、真勢中州の生卦法について、すごく大雑把にまとめてみました。真勢中州の特徴って、生卦法を用いることよりも、爻・卦などがより細かく実際の様子に重ねられていることかもです――みたいな話でした。
かなり端折ったまとめ方でしたが、お読みいただきありがとうございました。
追記
真勢中州には、もうひとつ爻卦法というすごく独特な技法があります(爻卦法も、実際の様子をふつうの周易よりさらに細かくみていきます)