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こちらの記事では、江戸時代の真勢中州(ませ ちゅうしゅう)の「爻卦法」について解説してみます。
爻には、もともと陰陽の性質があるのですが、“爻ごとの陰陽は、じつは八卦の性質を帯びている”というふうに真勢中州はしています。
なので、陽爻は乾・震・坎・艮、陰爻は坤・巽・離・兌にわかれていて、しかも成熟した陽爻(乾)&成熟した陰爻(坤)は変爻になっている――としています。(“爻ごとの卦”なので「爻卦」と云います。出し方は、八卦を六回出せばOKです)
この爻卦法は、かなり細かい情報が出せるので、なんとなくのイメージですが、時期・失せ物・病気などに用いられることが多いかもです。
というわけで、どんなふうに占うのか紹介していきます(あと、真勢中州には生卦法という技法もあります)
分け方は自由
まず、爻卦法でいろいろな時期をみている例からいきます。これはシンプル&きれいな占例なので、爻卦法の教科書みたいです。
1796年に、その年は豊作になるか否かを占ったとき、天水訟が出た。爻卦は、下から「兌震兌震震震」だった。
真勢中州はこれをみて、「初爻は1~2月、二爻は3~4月……みたいにしていくと、1~6月は雨(兌の陰)が多くて、7~8月は晴れ(震の陽)が多い。また、後天八卦で、震は東、兌は西になっているが、震の多い半分は乾(ぎっしりとつまった果実)、兌の多い半分は坎(薄暗く凹んでいる)。なので、東国は豊作、西国は凶作らしい――」としていた。
まず、爻卦法では、下から時期を等分するように配していきます。ここでは一年のことなので、一年を六つの爻に分けると、ひとつの爻で二ヶ月になります。
そして、それぞれの時期にどんな爻卦が入っているか、三つの爻を合わせるとどんな卦になっているのか――などを混ぜるようにみていきます(ここでは、1~6月に兌が多くて、下卦は坎、7~12月に震が多くて、上卦は乾です)
さらに、震が多い半分を東、兌が多い半分を西――みたいに、二つに分けることもあります(こんなふうに、分け方はけっこう不規則だったりします)

全体の雰囲気重視
つづいては、爻卦法では何重にも出てくる雰囲気みたいなものを大事にしていたらしい――みたいな例をいきます。
ある老人が、日頃はかなり元気だったが、あるとき急に風邪をひいたと思ったら、たちまち食欲もなくなって、下痢が止まらなくなった。しだいに手足も冷たくなってきたので、その治し方を問うてきた。
占ってみると、中孚之訟が出た。真勢中州は「風沢中孚は、二爻ずつセットでみると大きい離になっている。しかも、三爻(大きい離の卦主)には爻卦 離が入っている。なので、四爻の陰爻もどうやら離を兼ねているらしい。
さらに、五爻・上爻には爻卦 艮が入っているので、身体に悪い気を閉じ込めているらしい。あと、之卦は天水訟なので、天から水が流れている様子で、これはたぶん下痢だろう。治し方としては、まず悪い気を閉じ込めている艮を崩すような、汗を出させる薬があれば、他のところも治っていくだろう」
真勢中州は、けっこう病気を占っていますが、薬の種類とか理論も違うので、爻卦の技法だけみていきます……。
まず、みていて気になるのは、四爻が坤なのに、「大きい離の卦主にあるから、四爻の爻卦も離」としているところです。
実は、爻卦の乾・坤については「変爻なので、陰陽どちらにもなれる」とされていて、震・巽・坎・離・艮・兌のどれかになります。ここでは、大きい離の卦主になっているので、四爻も離としています。
こんなふうに、爻卦法では全体で幾度もでてくる雰囲気を感じるようにみていきます(風沢中孚が大きい離になっている&卦主の三爻にも爻卦 離が入っているみたいな。爻卦法では、間接的な証拠が多くなるのが、すごく魅力的なのです)

玳瑁の簪
最後にひとつ、爻卦法を用いたすごく高度な占例をみていきます(真勢中州の中で、もっとも複雑にして技巧的です……)
京都の三条通りに、玳瑁(ウミガメの甲羅)の飾り物をあつかう店があった。ふだんはあちこちの客に売り歩いたあとに、店に帰って品数をしっかり調べていたが、かなり忙しい日がつづいて、三日ほど品数を調べなかったら、簪がひとつ足りなくなっていた。
真勢中州が占ってみたら、雷風恒が出て、爻卦は下からみて「離艮震坎巽離」だった。まず、三日をそれぞれの爻に重ねて、初~二爻は一日め、三~四爻は二日め、五~上爻は三日めとした。
まず、一日目は爻卦どうしを合わせると山火賁、三日目は火風鼎になっていて、いずれも離(明るい)を含んでいる。一方で、二日目の爻卦を合わせると、水雷屯になっていて、凹んで奥まっているところ(坎)で動いている(震)になっているので、この日が怪しい。
四爻の爻卦 坎(薄暗いもの)がどうやら簪を盗んだ者らしいが、坎は陰の中に陽を隠している卦なので、陽はきらきらと綺麗な玳瑁の簪だとおもわれる――。
また、場所としては、四爻は外卦ではもっとも近いところなので、かなり近所の家だろう。四爻は、外卦震(東)の卦主にもなっていて、さらに爻卦が坎(北)なので、どうやら東北あたりらしい。
この話を聞いて、なんとなく思い当たる家があったので、その家に尋ねてみたら、数日ほどして廊下に落ちていたという形で、玳瑁の簪は返ってきた。
まず、爻卦法では下から順に期間をわけていくので、今回は三日間ということで、三つにわけています。さらに、爻卦どうしを組み合わせて用いる――みたいなことも可とされます。
そして、四爻の爻卦 坎の様子をさらに陰陽の形で分けてみているところなども、すごく複雑&精緻です。最後は、場所をみるときに、四爻が外卦の卦主になっていて、しかも爻卦坎ということで、東北あたり(震:東、坎:北)としています。

まぁ、これを真似するか否かは別として、爻卦法でかなり細かい様子などをみているのが感じていただけたら嬉しいです。爻卦法では、ふつうの周易よりも出てくる情報量が多いので、より細かい時期・場所などを予想できるのが、とても魅力的です♪
かなり細かい技法の話が多くなりましたが、お読みいただきありがとうございました。